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まだ食べられるのに捨ててない?賞味期限問題に学ぶ「常識の疑い方」

大量の食品ロスの原因とは?

平成22年度の農林水産省の推計によると、日本では年間500〜800万トンもの食品ロス(まだ食べられるにもかかわらず廃棄されている食品)があるとされています。

これは世界全体の食糧援助量の約2倍に匹敵する量です。大量の食品ロスの原因の1つとされるのが「賞味期限」です。ここでは食品ロス問題の専門家である井出留美さんの著書『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(以下、『賞味期限のウソ』)を参照しながら、「賞味期限=安全の基準」という常識の正体を暴くとともに、常識全般の疑い方について考えます。

なぜ賞味期限は短い?日本人の過剰な安全主義

井出さんは『賞味期限のウソ』の中で、日本で賞味期限が必要以上に重要視されるのは、日本人の過剰な「ゼロリスク志向」に一因があるとしています。私たちはつい「食品は安全でなければならないし、それが当然である」と考えがちです。

しかし専門家からすればこれはありえないことだそうです。なぜなら食品は食品添加物や農薬などの化学物質のほか、ウィルスや放射能などのリスクを、常に抱えているからです。

もちろんこれらは大量に摂取すれば命にもかかわりかねませんが、微量であれば大きな問題にはなりません。にもかかわらず日本人はリスクがゼロではないとわかるやいなや、「けしからん」と怒り出します。

これではメーカーも極力リスクを排するために賞味期限を短く設定せざるを得ませんし、卸や小売も非常に早い段階で廃棄・納品拒否せざるを得ません。

実際日本の食品小売店の多くは「3分の1ルール」といって、賞味期限の3分の1を過ぎた商品をメーカーや卸に返品(納品拒否)してきました。そしてメーカーや卸もこれを受け入れてきました。これは私たちが日常で使うスーパーやコンビニでも同じです。

「捨てるコスト」は価格に転嫁される

こうした慣習は日本の食品を安全にしたかもしれません。しかしこの必要以上の安全性と引き換えに私たちは大きな損をしています。例えば井出さんはスーパーよりもコンビニの食品が高い理由として「『捨てる前提』で、『捨てる費用』があらかじめ商品価格に織り込まれていること」(前掲書p95)を挙げています。つまり私たちは「いつでも安全安心な食品が手に入る」という環境を、お金で購っているのです。

これはコンビニに限った話ではありません。居酒屋やファミリーレストラン弁当屋にパン屋にケーキ屋……飲食に関係するほとんどの業態は、廃棄コストを商品価格に加算しています。

確かに廃棄コストを抑えて低価格を実現すれば儲けにつながるため、捨てない努力をしている企業や店も少なくありません。井出さんは著書の中でこの状況を心強いと評価しています。

しかし農林水産省の平成22年度推計によれば、500〜800万トンの食品ロスのうち300〜400万トンは食品関連事業者から出ているとしています。このことを考えると全く楽観視はできません。

「本当に賢い食品の買い方」3つのポイント

確かに食品の安全は大切です。しかし大量の食品ロスを出し、しかもそれをお金で購っている今の状況は、消費者が自分の首を絞めているとしかいいようがありません。

「メーカーが先に行動を起こしてくれれば……」と考える人もいるかもしれませんが、ここはまず自分から行動を起こしましょう。以下では『賞味期限のウソ』をヒントに、食品を賢く買うための3つのポイントを紹介します。

●「買う」という行為を見直す

買うということは、その商品を支持するという姿勢を表明すること。
引用:p131

私たちは日常的に「買う」という行為をしていますが、それがどういう意味を持つかは考えません。しかしこの行為は商品を支持し、商品のあり方を支持する姿勢の表明です。

食品でいえば、安全を維持するための廃棄を前提としたビジネスモデルも支持する姿勢の表明といえます。この事実を受け止めたうえでどう行動するかは個人の自由ですが、全く考えずに支持し続けてしまうと、前述のような経済的な損失を甘んじて受けることになります。逆にしっかり考えて行動すれば、今よりもっと納得のいく買い物ができるようになるでしょう。

●「正しい損得勘定」を身につける

「1個300円のところ、2個なら500円」という類の売り文句は、日々スーパーで買い物をしている人なら一度は見たことがあるはずです。ついつい「それなら2個がお得!2個買おう!」と2個買ってしまう人も少ないでしょう。

しかし本当に必要ならばともかく、最終的に1個を腐らせてしまって捨ててしまうようでは、1個を500円で買ったのと同じですから、得をするどころか損をしています。それならばちょっと贅沢をして1個400円のものを買ったほうが、満足度も高かったはずです。こうした正しい損得勘定こそが、経済的にも精神的にも賢い買い物につながります。

●空腹状態でスーパーに行かない

米国コーネル大学の研究では「空腹状態で買い物をするとハイカロリー品を選びがち」という結果が、そして米国ミネソタ大学の研究では「空腹状態で買い物をすると買う金額が64%高くなる」という結果が出ています。

後者の研究では空腹時に胃で分泌されるグレリンという物質が、購買行動を活性化させるということまで明らかになっています。このように空腹時にスーパーに行くと健康面でも経済面でも損をしてしまいます。賢く買い物をしたいのであれば、スーパーに行く際はくれぐれも何かをお腹に入れてからにしましょう。

賞味期限問題に学ぶ「常識の疑い方」


ここまでで「賞味期限=安全の基準」という常識がいかにアバウトで、しかも消費者自身の首を絞めているかが明らかになりました。最後にこの賞味期限問題から、常識全般の疑い方を3つのステップに分けて簡単にまとめておきましょう。

●自分の中の「常識」を洗い出し、最初の「なぜ」を投げかける

まずは問題となる常識を発見するところから始める必要があります。例えば「なぜ携帯の機種代は実質0円になるのか」「なぜYouTubeは無料で観られるのか」という切り口ならばビジネスモデルを明らかにできるでしょうし、「なぜ子育ては難しいのか」「なぜ企業で働くのか」といった切り口ならば人生に関わる問題にアプローチできそうです。今回取り上げた食品の場合なら「なぜ賞味期限切れの食品は危ないのか」という切り口です。

●「なぜ」を3回以上繰り返す

最初の「なぜ」だけでは常識から抜け出すことはできません。そのためには何度も「なぜ」を問いかけて、掘り下げて行く必要があります。「なぜ賞味期限切れの食品は危ないのか」という問いは賞味期限切れの食品は危ないという前提に立っていますが、この問いの答えは「危ないとは限らない」です。

これを「なぜ」で掘り下げれば「賞味期限の決め方はアバウトだから」という答えが導かれ、さらに掘り下げれば「不確定要素が多すぎて明確に決められない」といった答えが考えられます。さらに掘り下げ、切り口を変えれば別の答えを導くこともできるでしょう。

●それでもなお「常識」を信じるかを判断する

ここまでくれば「どうやら賞味期限は完璧な安全の基準ではなさそうだ」と気づきます。このうえでなお賞味期限を安全の基準とするか、または自分の目や舌だけで判断するか、あるいは賞味期限を目安としながら自分の目や舌でも判断するかは個人の自由です。

大切なのは常識に依存せず、自分で判断すること。それが買い物だけでなく、ビジネスや私生活あらゆる場面で納得のいく選択をするうえでの最重要ポイントです。

常識という便利な言い訳に依存していてはいけません。自分の頭で考え、自分の意思で行動する。それこそが賢く生きるための唯一の方法です。そのためにもまずは自分の中の常識から、疑ってかかる習慣をつけていきましょう。